「ハルヤ、久々だね。1年ぶりくらい?」
「阿呆抜かせ。あれきり何年経ってんだ」
「そうだっけ?」
機械油の匂い。
あちこちで小さな旋盤や見たことのない機械が働いている。
だけど、その機械の前には誰一人人間はいない。
…こう言っては失礼だとは思うけど、小さな工場だ。
働いているのは彼だけなんだろうか―――
「ハレルヤ、お客さんかの」
「…ッ!?」
突然。にょき、と老人が生えた。
嘘。 すぐそこにあった旋盤の影から突然姿を現した。
彼と同じ作業着だ。酷く年季の入ったご老体だ。
…気配が、なかった。
「爺、古登だ。覚えてっか。油見っから奥開けてくれ」
「お~…こと…」
「じいちゃん、久しぶり。ふふ。あれから全然痛くないよ。」
「ああ…古登ちゃんか。おお、大きくなったなぁー」
「爺、俺からするとそいつ全く変わってねぇぞ」
「ふふ。じいちゃんの手ぇ、おっきいの変わらないね」
「……」
「少年」
びく、とつい反応してしまった。
不意に声をかけられたのが自分だと、疑いもなく理解できた。
彼が。…古登に『ハルヤ』と呼ばれた彼が、まっすぐ…強い目をこちらに向けたから。
「阿呆抜かせ。あれきり何年経ってんだ」
「そうだっけ?」
機械油の匂い。
あちこちで小さな旋盤や見たことのない機械が働いている。
だけど、その機械の前には誰一人人間はいない。
…こう言っては失礼だとは思うけど、小さな工場だ。
働いているのは彼だけなんだろうか―――
「ハレルヤ、お客さんかの」
「…ッ!?」
突然。にょき、と老人が生えた。
嘘。 すぐそこにあった旋盤の影から突然姿を現した。
彼と同じ作業着だ。酷く年季の入ったご老体だ。
…気配が、なかった。
「爺、古登だ。覚えてっか。油見っから奥開けてくれ」
「お~…こと…」
「じいちゃん、久しぶり。ふふ。あれから全然痛くないよ。」
「ああ…古登ちゃんか。おお、大きくなったなぁー」
「爺、俺からするとそいつ全く変わってねぇぞ」
「ふふ。じいちゃんの手ぇ、おっきいの変わらないね」
「……」
「少年」
びく、とつい反応してしまった。
不意に声をかけられたのが自分だと、疑いもなく理解できた。
彼が。…古登に『ハルヤ』と呼ばれた彼が、まっすぐ…強い目をこちらに向けたから。
「…うん。」
「何か飲むか。寒いだろ。そのへんに座ってろ」
「……あ…ありがとう。」
早口で淡々と彼は言った。そしてさっさと部屋を後にした。
思わずかしこまってしまった。ぶっきらぼうだが、今の口調に怖さは無かった。
…僕をどう思っているんだろう。
「カイエ、よかったね。ハルヤの入れるお茶、おいしいんだよ」
「そうなんだ…」
「古登ちゃんよ」
「なあに、じいちゃん」
「その少年はどなた様だい?良かったら紹介してくれないか」
「んー」
少し身体が強張った。
古登が、誰かに…僕の知らない誰かに「僕のことを」言うのは、…はじめて見る。
「カイエ。一緒に旅してる、ひとり。…いいこだよ」
ふ、と。古登はやわらかく、微笑った。
――途端、――僕の耳は熱を持った。
「そか、そか。…それはぁ、いいことだなぁ…」
「カイエ。じいちゃんは、ハルヤの爺ちゃん。ヨエルって言うんだ」
「…ハルヤ、は」
「ハレルヤ、が本名だ。」
そこへ彼が戻ってきた。手の盆には、湯気のあがるカップが、2つ。
…ハレルヤ。
「あー、ハルヤありがと」
「ちげぇよ、爺と少年んだ。てめぇはこれからメンテだろうが」
「ちぇー」
そう言って目を伏せて、笑う古登。…僕の知らない、古登。
「おら」
彼が僕にカップを上から差し出した。座っているから尚更、…大きい。
「…ありがと…う」
「じゃぁカイエ。待っててね」
「え…あ…う ん 。」
古登は奥にもあるだろう部屋に、ぱたぱたと駆けていってしまった。
手に残るのは温かなカップひとつ。彼は爺ちゃんにもカップを渡すと、彼女に続いた。
しん、と空気が呟いた。
……メンテナンスって…
「カイエくん…と言ったかの」
「っ!は、はい…?」
急に――ご老体が僕に話しかけた。
「…古登ちゃんとの付き合いは…長いのかのぉ…」
「う、ううん。いや、まだそこまでは。えと…そうだなぁ、」
「そうかのう…くっく」
「?」
「カイエくんは…古登ちゃんの痛みを…ちゃんと解ってくれてる…みたいだのう」
「え…?」
「古登ちゃんを…傷ついた目で…見てくれてるからの」
「―――」
傷ついた…目?
「お前さんも…苦労してきたんだのう…」
何もしらない。何も知らない筈なのに。…どうして。
このひとは、…そんな言葉を、そんな…深い声で。
「…僕は…そんなんじゃない」
「そうかのう…」
「うん」
「…古登の、傷に比べたら…」
はっ、と思った。
思わず自分が口走った言葉を後悔した。――比べる、ってなんだよ。
――『傷』の深さに優劣決めるなんて――そんな――
「…カイエくんは…優しいのう」
「?」
「古登ちゃんは…優しいひとに出会えたんじゃの」
「うれしいのぅ…」
――気付けば、手の中のカップは。
中身は『こーひー』だったのだが…
温かさを失っていた。そのくらい、僕はほうけていたらしい。
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