なあ、頭領
俺ぁ、
…ずっと里に戻ることだけを見て
それだけが欲しくて
…ずっと
明日俺が俺じゃなくなるかもしんねぇ
そういうのを堪えてきたんだ
怖くなかったなんていわねえよ、あんたじゃねぇんだ
あんたに比べりゃ、…俺はまだまだガキだ
…あの日 頭領が投げてよこした言葉だけが
俺の膝を伸ばしてた
けどな けどな
今、…なんかわかんねぇんだ
今な、…俺に里以外の家をくれた女がいるんだ
まだ報告に行けてねえけど
異国の女だ 髪が絹みてぇに細くて光ってる
ここだけの話 俺にゃあ些か上等すぎる
…惚気てる訳じゃ、…ねえぞ
いろいろあってな …その
嫁に、…きたんだ
あいつが俺と一緒になって
帰る場所をくれたんだ
くじけちまいそうな俺に
喝を入れてくれる
いつのまにか、…俺ん中ででけぇ存在になっちまった
こういうのもなんだが
…あいつさ、…あんたに似てるんだ
姿形じゃねえよ?
中身の話だ
芯が …太ぇ
まっすぐ …見据えてくる
強い …女だ
ただ
…あんたと違って
あいつは女だから
あいつの強いとこも弱いとこも
護ってやらねえと、いけねぇ
いや
……あいつだから
俺が護りたい
生涯
傍にいてやりてえ
でも、な
…あいつな…
夜 隣で寝てるときたまに
…泣いてんだ
昼間は滅多に見せねえんだ、そんな弱いカオ
ただ
…俺が戻った夜は決まって
泣くんだ
あいつが何を想って泣いてんのかはわかんねぇ
けど
…俺が 泣かせてんだな、って
それだけは理解できる
朝になって
あいつは自分が寝ながら泣いてたなんて
気付いてんのかいないのか
かけらも見せやしねえ
あいつは強情な女だ
てめぇの弱みはあんま見せねえくせに
俺がほしい言葉をいつも投げてよこす
あんたと、同じだ
なあ頭領
俺はてめぇで決めた誓いは意地でも曲げねえ
男はそうあるもんだってあんたが教えてくれたから
だけどな
けど な
…
こういう感情って、なんなんだろうな
里に帰ることも
あいつのことも
俺は、……どちらかを選ぶなんてこと、
今、……できねえ
わかんねえ……
けど、な
あいつが何て言うかわからねぇけど
いつか
俺は
ふたつめの誓いを押し通す。
まだ、
俺ん中で答はみつからねえけど
「それ」だけは
…確かだからよ
頭領
…今ならあんたの気持ちが少しわかるよ
てめぇの女は
てめぇで 護る。
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