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この里の頭として 野郎を叩き出す---。


一瞬思考が停止したが。
紫皇は即座にその言葉の意味を探った。
…それからの言葉を聞いていたのは、彼だけではなかった。



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「…それは-…なんかマズイことがあるからって言うことスかね」
「まあな」
「どんくらい?」
「そうさなー…里の存続クラス?」
「そりゃ穏やかじゃないスねー」
「だろー」

この切り替えし。
紫皇は風漢の兄分として、10年来の付き合いがある。
また二人を育てたのはこの男。…戦闘民族「桜牙」現頭領、…意綱。
お互い笑ってはいるが、話は更に深くなる。

「マジンになる、ってのがとりあえずマズイんスかね」
「ああ。この呪いは言わば悪性のウィルスだ。どんなに精練潔白な人間でも、
一度魔に支配されりゃあ、」
「--人でなく、魔物--。」

しばしの、沈黙。
刺すような痛みのある、時間。

「…つまり」
「ん」
「人を襲う、と?」
「一概には言えねぇが。…恐らくな。野郎は人としても相当の鍛練を積んでる。
そんなんが魔の力なんぞ入れられたら、どうなるか」
「……」

幼い頃から本当の弟のように可愛がり、
また武闘のお互いに欠けた部分を補って共に歩いてきた。
里の者の誰もが、彼の大樹のような真っ直ぐさを好いていた。
年頃になり、そろそろ嫁でも探してやるかと余計なことまで考えていたところだった。
そう言えば、風漢は少し眉をひそめてから言うだろう、
「余計な世話だ、阿呆」
と。
…その風漢が。里を。…襲う?

「…おめぇの言いてぇことは解る」
「…だけど、…意綱には、…里を護る義務がある」
「--そうだ」
「………」

「俺も、…そ、…思う」


『!!』


即座に背を向けていた"そこ"に目を向ける。
態勢は変わらず。だが、右の目のみを隠していた熱い掌は、
今は彼の鼻から上に乗せられていた。
表情がわかる。風漢は、口角を歪ませて、微笑っていた。

「風漢…」
「気付いたのか。たいした精神力だな」
「…頭領…、俺は、…どのくらい落ちてましたか」
「三日だな。もうすぐ四日目に入る」
「…は、情けねェ…」

息は変わらず、荒い。肺に蝙蝠でも住んだかのような高い音がする。
両の目は見えない。だが、風漢は確かに苦虫を噛み潰したかのような顔で、
微笑っていた。

「そんな悲観するほどでもねぇよ。
普通なら一週間意識が戻らなきゃ魔人云々の前に逝っちまうらしいぜ」
「…は、…嬉しくもねェよ…」
「だろうな」
「…頭領……」
「あぁ?」
「……俺、を…里から出して下さい……」

紫皇が目を見開いた。すぐに声を発した男の手前まで近付く。

「風漢、お前何言って--」
「…このままじゃ、俺は……里を潰すんだろ…?」
「そうと決まった訳じゃねぇ」
「…だが…ゼロ、じゃねえ……」
「………」
「…この里を、潰すくれぇなら、……厄介払いされた方が、……マシだ」
「---」

風漢は。…本気だ。
そういう男だ。

「まだ、決まった訳じゃねえよ」

振り返る。
意綱は少し目を伏せて、短くなった煙草の火を揉み消していた。
紫皇が低い声を出した。
風漢の息の音だけが響く。

「…治るのか」


二本目の煙草に、燈を付けた。

「--確定ではないが。方法は無いとは聞いた訳じゃない。
だからあるんじゃないか、って話だな」
「誰に聞いたんスか。リエルさん?」
「まあな」

リエルとは、意綱と親交の深いラハエル族の青年である。
ラハエル族は世界で最も長寿な種族で、
耳の先端が尖りとても肌の色素が薄いのが特徴だ。
また、最大の特徴。「人類最長の生きた書物」---

「…あの人でも知らねぇことがあるんだな」
「あいつの知識には偏りがあるからな。…とりあえず、…捜す価値はありそうだ」
「頭、領…」
「風漢」

煙草を消し、ずしりとした重量感のある靴音を立て、主は歩み寄る。
風漢は伏せていた掌を退けた。
右目は、泣き腫らしたかのように、赤く光っていた。

「…その風邪みてぇな症状は、7日越えりゃあ治まるもんらしい。
体調も戻るとよ」
「…ほんとスか?」
「奴に聞け、あのじじいに」
「……何年生きてんスか、リエルさんは。てか今何処いるんスか」
「知るか」
「……俺、は」
「お前?てめぇは確か22になったろう」
「そっちじゃねぇよ阿呆」
「紫皇てめー育ての親に向かって」
「誰がだボケ」
「頭領なめんなー?」

虚ろだが、風漢の視線は安定してきていた。
息は変わらず荒いが、赤い眼は二人を見つめた。
『俺は』のあとに続くはずの言葉は、行き場所を不意に失って風漢の元で燻る。
…おれは。…ここで。…いいのか?

「いいか、風漢」
「…はい、頭領」

大きな掌が、自分の両の目を覆う。
熱い。

「『桜牙』頭領として命じる。体調が安定し次第離村を許可」

噛み締める。

「とりあえず、捜せ世界を。何年かかってもいい。
捜す以外のことをしても構わねェ。たまに戻るのも許す。だが、」

熱い。

「死ぬまでに治せ。でもって帰ってこい。以上」



「………承知…………」


返事はこれだ。
10年前に教えられた言葉だった。










「……ふうか、ん~…」

ぼたぼたと大粒の涙を零すのは、我慢できなかった少年。
愛しげに見つめるのは、穏やかに笑む、青年。
くしゃくしゃと髪を混ぜてやる。見上げると、少年がいつも見ていた顔がある。
いつもじゃなくなる。
風漢の右目の周りは包帯で覆われていた。

「ほら、若。泣くんじゃねぇよ」
「……若って呼ぶなつーてんだろ~~」
「だって若じゃねぇか…」
「その筋みたいでやなんだよ!!!」
「意織、あんま変わらねえから諦めな」
「紫皇までそんなこと言うー!!!」
「ハイハイ。あんま引き止めるもんじゃねぇぜ」
「………」

見渡せば、里の人々が遠くに近くに。
世話になった。
昨日は丸一日かけて里の人たちの家を回った。
何故、自分が郷を出るのか。彼は正直に告白した。
初めは誰もが面食らい、抵抗を示したが、誰もが「いってらっしゃい」と背を押した。
「治るのか」と聞かれ、「治します」と答えた。
そうして送り出される。
病の恐ろしさに、きっと自分は恐れられているだろう。
けれど、それよりも送られる言葉に、彼は救われていた。
風漢は改めてこの里に生かされていることを実感した。
仰ぐ。

「…まあ、なんだ、とりあえず行ってこいや」
「ああ。紫皇、とりあえず頭領と若のこと頼むわ」
「若言うなー」
「へぇへ。任せてもらおうか」
「ああ」
「う~…」
「ほれ、意織。いい加減泣き止め。男だろーが」

紫皇が彼の背中を軽く叩くと、
少年は泣いた目をきっととがらせて、ぐいっとこする。
この小さな、未来の主はまだ11。これからが楽しみだ。
…その成長に、傍に居てやれないことが、…残念だけれども。
風漢は腹を決めていた。

黙って少し遠くに佇んでいた意綱に向かい、風漢は一礼した。
それを見て意綱は小さく笑んだ。それだけで充分だった。
もう一度、紫皇に向き合った。

「留守中、迷惑をかける。が、…必ず戻る。頼む」
「いっそのこと嫁見つけてこい」
「…そういうのは俺が決める。余計な世話だっつの」

少し憮然とした、だけれど照れたような表情の風漢を見て、
紫皇は漸く笑った。しょうがねぇな。小さく呟きながら。

「-風漢!」

突然、人込みの中から声が響いた。
今の今まで仕事をしていたのだろう、作業着のままのタタラが現れた。

「タタラ?」
「間に合ったか…。はあ」
「何だよ?」
「…やる」

少し息を切らした『桜牙』の刀匠は、二振り作品を放った。
大刀、小刀。曲線を描いて風漢の手に納まった。

「-タタラ?これは…」
「…餞別だ。お前には過ぎたものだとは思うが」
「……タタラ」
「ちなみにまだ銘は入れてはいない。まだ半人前だからな。
勘違いするなよ、丸腰で外に出たらろくなことにならない。
だからまだ誰にもやっていなかったやつを持ってきてやっただけだ、有り難く思え」
「……お前、そんな一気に言わなくても」

刀が、ほのかに熱い。
まだ打った焔の熱が冷めきらないのだろう。
布にくるまれた鞘を通り越し、刀身から熱を感じる。
…手に馴染む。風漢は息を少し吐くだけの笑みを零した。

「…約束にゃ、まだ早いと思うが?」
「仕方ないだろう。オレもお前も一人前にはまだ遠い。
だが状況がこんなだからな。仕方ないだろうが」
「いやだからそんな…二回も仕方ないゆうな」
「うるさいさっさと行け」

素直じゃねぇなタタラ、と周りに笑われ、
決まりが悪そうにさっさと工房に戻っていった。
背中を見送りながら、風漢は口の中で礼を言った。

「…じゃあ、そろそろ」
「--ああ。…生きて帰れよ、風漢」

そう意綱は呟き、笑う。
風漢はそれに応える。

少しの荷物。
腰と、後ろ手に差した無銘の相棒。
風漢は顔に巻いていた包帯をするりと解いた。


「----行ってくる」



腫れのひいたその目には、力が宿っていた。


…彼が世界を廻り。
遠い異国の、西の地で。小さな少女に出会うのは、これより1年後の話。
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