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「アリオト?…酷い顔だな」

廊下ですれ違ったリーザに、
珍しく話し掛けられたと思ったらその言葉だった。

いつも厳しい表情をしているが、俺の顔を見たその瞬間、
…リーザは何というか、…「ぅわっ」と小さく呟いた気がした。

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「…ああ、…悪い。昨晩、少し眠れなくてな。
心配するな、職務には影響させない」
 
「当たり前だ。騎士たる者が体調管理もできなくてどうする。
陛下に無駄な心配をかけるな。顔でも洗って目を覚ませ」
 
リーザは鋭い目で射るように、俺をたしなめた。
言われたことに関しては、返す言葉もない。
騎士としての最低限のことだ。

リーザもそう突き放すが、あいつなりに心配してくれているのだと、
ようやく理解できるようになったところだった。
以前あった、王の命が狙われた時を越えてから。
…あいつ自身が少しだけ、こちら側に歩み寄ってくれたように感じる。
それはとても喜ばしいことだった。
……だがしかし、そんなに酷い顔なのか。

「…そうだな。ああ、分かってる。…そうするよ」
 
「…アリオト」
 
「?何だ」
 
「……」

そのまま行こうとした俺を、後ろから呼び止めた。
珍しいことが続く。
あいつが俺を呼び止めるなんて、今まであったろうか。
見ると、リーザはいつもの厳しい表情ではなく、
…少しだけ、固い顔つきになった。なんというか、…ためらっているような。
 
「…貴様は…明日、何があるか、知っているのか」
 
「…ああ。…シーリィン様の…見合い、だろう」

「……貴様は……」
 
「うん?」
 
「---何でもない。さっさと行け」
 
「?」

リーザはまた険しい、というか苛立ったような顔になって、
俺とは逆方向の先に向かって早足で去っていった。
…あいつも、シーリィン様の見合いに、動揺しているんだろうか。
何となくだが、…かなしそうだった。
そのらしくない表情が、少し気にはなったが--
今は、誰かにまた指摘される前に、どうにかすべきだと思った。


…少しどころではなく、…正直なところ、昨晩は一睡もできなかった。
乱された感情を何とか押さえつけて眠ろうとしたが、
どうしたって頭から離れることは、なかった。

… シーリィン様の…お顔が。

そんな自分に嫌気が差す…。昨晩、あれだけ自分に諭したというのに。
だが、自分が今、…おかしい状態になっていることには気付いている。
 
…明日が、シーリィン様の…見合い当日だということに、改めて気付いて。
その事実に、名前のつけられない苛立ちが付き纏う。
---それが…新たに拍車をかけてくる。

なんていうか、
…彼女が俺をよく呼び、御用を申し付けて下さることが、

今までとても。…嬉しかったことに---気付いてしまった。

…彼女が俺に、声を掛け、名前を呼んで下さることが---
うれしかった。
 
シーリィン様が笑ってくださることが。
…本当に、今まで。嬉しかったんだ。
 

「ぁ~~~~~~~~…ッ重傷だ…」

城の裏庭の、城壁を曲がった所にある、水飲み場。
ぽつんとあるその小さな水飲み場は、滅多に人が来なくて丁度良い休憩場だった。
蛇口をひねった。
そこで、頭から水を被る。
顔を洗うだけでこの邪念が払えるとは思えなかった。
 
「…くそ…」

アドニアは一年を通して温暖な気候だ。
北方の人間からすれば、暑いくらいだろう。
だから、こうして水を被ってもその場ですぐ乾いていく。
今日は曇りがちだが、気温はいつものように高い。
…冷たさなど、…感じる間もほとんどない。
だが、さっきよりは、まだマシになった。…気がする。
 
頭がくらくらする。体調が悪い訳ではない。
それだけはけしてない。
だからますます悪い。自分で自分に呆れる。
今までこんなことはなかった。

…女性のことが頭から離れないなんて。
騎士として、---なんだこの、体たらくは…!!

それが忠誠を誓い、お仕えしているからだということならいい。
今までそうだったのだから。

だが---そんな目で----シーリィン様を見てしまっていたなんて----


「…騎士、失格だ…」
 
…シーリィン様に、王に申し訳が立たない。
自分がこんなにも騎士として未熟だとは思わなかった。
--騎士は、そんな私情を挟んではならない。
お仕えする方々に対してなら尚更だ。

…こんなに自己嫌悪に陥ったのは、…初めてだ…。


天を仰ぐと、太陽が覗かせたところだった。
熱い光が降り注ぐ。
このまま、雲に隠されなどせず、その姿を現すだろう。
何者も及ばない、強い存在。
アドニアの、象徴---。
 

…そうだ。
いつまでもこんな風に落ちてなどいられない。
こんな未熟な感情に掻き回されていては--王に仕える資格など、ない。
…知ってしまったなら。
昨晩自分で決めたように。
…知らないでいればいい。
俺の気持ちなど。気付かなかったふりをすればいいんだ。

…それより、そんなことより、やるべきことがあるはずだ。
俺は、アドニアの王家に仕える騎士だ。
いつまでもうだうだと考え込んでいる場合では、ない。
俺が、やるべきことは---


「アリオト様?」
 


不意に------ 声が響いた。


今。 …一番聴きたかった…声だった。
 

「…っ…シーリィン、様…!?」


自分でも驚くくらい、驚いてしまったらしい。
シーリィン様は、目を丸くしてその場に立っておられた。
…不覚だ、何故こんなに傍にいらっしゃるまで気付かなかったのか。
---顔が…みるみる熱くなるのが、判る。
…心臓が…痛む。


「アリオト様にしては、珍しいですわね。
私が声をお掛けするまで、 お気づきにならなかったのですか?」

くすくすと、小さく笑いながら、お顔を綻ばせていたずらっぽくそう囁いた。
お顔を直視できない。
いつもなら、そんなことけしてなかったのに。
 
…こんなに、自分はいつも緊張していただろうか---
 
「いえ、大変失礼致しました。少し…考え事を…していましたので…。
シーリィン様こそ、どうなされたのです?裏庭に、何か御用が?」
 
「あ、いえ。…その」
 
「?」
 
シーリィン様は、ふと視線を逸らし、言葉を躊躇ったように見えた。
そして、ぽつりと、控えめに微笑って、呟いた。


「…上から、アリオト様が見えたので。ちょっと、お顔が見たくなっただけ」
 

--------…


「でも、なんだか顔色がよくないように見えますけれど…
あまり体調が優れない のではないですか?」

「…あ、いえ!昨晩、少々寝付きが悪かっただけです。
ご心配をお掛けして申し訳ありません。 …ご心配には、及びません。
今、目を覚ましたところです」
 
「…そう、なのですか?でも、あまり無理をなさらないで下さいね。
常々思うのですけれど、アリオト様は少し働きすぎです」

「ははっ、そのようなことはありませんよ。
むしろ最近は、王があまり遊びに出ないので 楽をさせていただいていると思うくらいです。
有り難いくらいですよ」

「まぁ、ふふ。そうなのですか?」

「ええ。あ、そうだ、午後の公務の書類をちゃんとお作りになっているのか
見に行かないと---シーリィン様、申し訳ありません、-」

「あ、こちらこそ申し訳ありません。お時間を取ってしまって--」
 
「いえ!とんでもありません。自分の方こそ--」
 

あっ、と思い、瞬間的に手の甲で口を押えた。

俺は--今--
 

「…あまり、無理なさらないで下さいね?」
 
「ええ、--はい。ありがとう…ございます」


深く、礼をして、…失礼致しますと早口で告げて、
逃げるように。俺はその場から走った。
 
余裕なくその場を去ってしまったから。
シーリィン様が、俺の背中が見えなくなるまで見送ってくださっていたことと。
…もの悲しそうに--その長い睫を伏せたことに--気付かなかった。
 

…頭を上げたあと、シーリィン様のお顔をまた見て、会釈するのが
--本来の礼儀だ。だが、それはできなかった。

俺は--

俺は。
 
今…

『自分の方こそ、お顔が見られて嬉しかった』


そう---- 言ってしまいそうになった。


顔が、頭があつい。
心臓が早鐘を打つ。
痛い。
ああ。

あふれてくる。

これは。

この気持ちは―――――


 
…ああ。
 
そうだ。
 
そうなんだ。
 
やっぱり

俺は----
 
俺は。


…あの方が。

 
あの方が、笑って。

俺を見て、笑って下さるのが…


あの笑顔を見せてくださることが。


ほんとうに 本当に、身に余る程、光栄で。
 
嬉しくて それは …きっと

 
… …認めざるを得ない。
 

俺は---… どうやら。


もうとっくのとうに、…ごまかすことなど、できないくらい。


…もうどうしようもないくらい。
 

----あの方を…そう、…らしい。


…生まれてこの方、そんな感情を女性に抱いたことなど、なかった。
だから…とてもじゃないが、言葉にはできない。

つくづく俺は、…ヴェイタ殿のようになるまでは、まだまだかかるらしい。


… でも それでも、



…この想いは、今後も口にすることはないだろう。

 
することは、…きっと許されない。
…出来すぎた話だ。一家臣でしかない騎士が…姫君に想いを寄せるなど。

…殿下…申し訳ありません。
俺は…貴方にとって一番の腹心でありたいと、そう願い、そう信じて生きてきた。
だが…
貴方に、シーリィン様に…心から申し訳なく…思う…。


 
…俺は。 一人の男である前に--
この国の、王家に仕える、騎士だ。
それを誇りに思っている。何よりも。

ならば--- この想いを殺すことも。…厭う必要は、ない。


ヴェイタ殿。
俺は…俺は…
貴方に諭されたことに、背を向けることになる。
…けれど…貴方なら、きっと解かってくださると。
思う―――――




代わりに あの方の幸せを祈ろう

どうか、…あの方が 幸福であるように。

俺の努力で、あの方の笑顔を護れるのであれば。
何だってしよう。
 
あの、…お優しい…シーリィン様が。

誰よりもしあわせで、あるように。



-----あの笑顔をこの手で護れるのなら。
 



何だって、やってやる。



それがたとえ

あのひとを他の男に、奪われてしまうことだったとしても。

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