…今度のは、。
最初のよりよっぽど酷かった。
意識が堕ちそうでおちねぇ。
即効性の毒でも盛られたみてぇだ。ゆるい断続。
堕ちたほうが余程楽だ。くそ、情けねぇ---
森の中だった。
アドニアを出て、もうかなりになる。
文化の違いが見てすぐわかるほどの。
ここは、肌の白い人間の多い大陸---?
ここに踏み込んで、感じたのは右眼の違和感。
来る、とざっと意識した時にはもう遅かったんだろう。
光が強い。
眩しい。奥が。
気持ち悪い----
…雨が、
降ってきた。
「…ち、…っく、そ……」
…穏やかな雨だが、空気自体をどんどん冷やしていく。
身体を冷やすのはまずい。
この状態じゃあ、まともに動けねぇ。
だが---情けねぇこと--言ってられねぇ。
半ば痺れている身体を動かす。
幸いに、ここは拓けた道だ。どこかに繋がってるかもしんねぇ。
…いや、…多分、……近い……。
人の…気配を感じた。
ひと……少なくない……村か、何かか…?
痛む右目を押さえながら、ようやくまっすぐ立ち上がれた。
朦朧とした頭と増してくる目の痛みと。
足元が覚束ないのが判る、だが歩かねぇとまずいだろ。
雨雲はまだ頭の上にある、
これ以上冷えると身体はますます言うことを聞かなくなるだろう。
--動けないなんて まっぴらだ---
ずきずきと痛む、熱をもったそれは容赦なく思考回路の解体にかかる。
歩く、人のいる場所に、とにかく---
普段なら人がいればいいなんて思わない。味方である保証なんてないからだ。
だが、---とにかく歩く。
俺には、…それしか選択肢は残されていなかった。
「…ぁ…」
村、だった。
穏やかな空気--雨空の切れ始めたその時だ。
最後の気力とばかりに俺は脚に芯を入れた。
そのとき、だったんだ。
…水色の、傘。
村の入口に、…誰かが立っていた。
…ちいさな、…
金の…絹のような、髪。
驚いたように、…大きな瞳を見開いて。
…女の子、…だった。
小さく声をあげて、…駆けて、きた。
「だ…っ、大丈夫かいっ…!?どうしたの、こんな、濡れて--」
「……きみは、…この村の、…ひとか……」
「そうだよ?あんた、旅の人かい?…苦しいの?」
「は…嬢ちゃんにもそう見えるか」
「誰が見てもそうだよ!歩ける?誰か--」
「嬢ちゃん、濡れるぞ…触るな…」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろう?こっち、そうだ親方のうちにきなよ」
「親方……?…………!!!」
俺は、不覚にもすぐに気付けなかった。
俺を支えようとしてくれた、少女の後ろから--
音も、気配もなく---現れた----
「……………リタちゃん」
「あ、親方!ちょうどよかった、この人---ってあああ、ちょっ、あ----」
………俺は。
残っていた最後の気力を。
根こそぎ、持っていかれた-----
…死ぬほど、……不覚だった。
今でも、……忘れねぇ。
「おお親方あぁ!!!急に出てきちゃだめだろーーっ!?
だだ大丈夫かいっ!?起きてぇしっかりしてぇ---」
「ご、ごめんよリタちゃん」
…忘れもしねぇ。
…おまえを、初めてこの眼で見た、あのとき。
忘れねぇよ…
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