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目が、醒めた。

不意に、考え事をしていてとんと肩を叩かれたような。
そんな一瞬の間だったかのように、彼女は目覚めた。
瞬きを数回して、寝かされていた古くきしむベットからゆっくり身を起こした。
知らない天井、知らない部屋の中。こざっぱりとした何もない白い室内、生活感があまり感じられない寂しさ。
ベットに備えつけられた白い小さな側机には、水差しと小さなカップ。
ここはどこ?と考えるより先に、
古登はそのベットにもたれ掛かるようにして寝息を立てる人物に目を留めた。

この位置では後ろ頭しか見えないが、古登の知る限りでは見たことのない深い黒髪だった。
少なくとも古登の生まれ育った集落では、バンダナに似た形状の布を頭に巻き付けるような風習もなかったと思う。
それの鮮やかな彩色は目新しかった。
だから、異国のひとなんだろうかと思った。
だあれ?
…そこまで考えてから、古登の脳裏にあの光景が蘇った。

---集落は。
砂地
---みんなは。
泣き声


「………!!!」

押し寄せる絶望に、古登の感情は塗り潰された。
両の掌で頭を抱え、溢れ出る漆黒の波に心臓がキリキリと音を立てた。

「……ッぅ あ あ ぁああ やあぁ……!!!」

古登の悲痛な声音に、黒髪の男は弾かれたように目を開き立ち上がった。
眉間に僅かに皺を寄せ、だが包むように震える古登の小さな両肩を掴んだ。

「…っ落ち着け!大丈夫、大丈夫…っだから!!」
「ああぁ」
「頼む、泣くな!頼むから、そんなに泣くな…!!」

泣き叫ぶ古登に負けないくらい悲痛に請う青年。
次の瞬間、彼は側机にある水差しを乱暴に手に取り、自らの頭にその水をぶちまけた。

ばしゃあ!!

……………。


…盛大に音を立て、少なくない量の水が彼の全身を濡らした。
何が起きたのか、目の前にいるひとは一体何をしたのか。
古登はその音と水しぶきに瞬間、泣くのを忘れてぽかんとした。
ぼたぼたと水色を滴らせ、ずぶ濡れの彼はくしゃりと笑ってこう言った。

「…びっくり、したか?…よかった。ごめんな」

古登の大きな瞳に一粒ずつ残っていた涙が、瞬きと一緒にすうと流れ落ちた。
泣くのを忘れ、彼女は眼前の彼を初めて正面からまっすぐ見つめた。
微かに震えた、その濡れた手を。
髪の色より蒼に近い眼を細めながら、古登のその透ける碧色の頭に優しく置いた。

泣いてるみたいに、微笑うひと。

古登はそう思った。



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